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#553 信号待ちの、間に 

あなたの信号待ちが、好き。
あなたと美術館に向かう途中。
信号待ち。
あなたと一緒だと、信号待ちも楽しい。
永遠に待っていられる。
いつもは、少しでも早く、早くと思うのに。
不思議。
周りの人は、信号待ちの間も、スマホを見ている。
あなたは。
空を見ている。
あなたの目線の先を見た。
冬の空。
午後3時半。
皇居の上の空。
雲が、油彩画のように奇麗。
早くも、夕日の光を浴びている。
信号待ちの間も、あなたは美しいものを見ている。
美しいものを見ているのではない。
見ているものの中に、美しさを見いだしている。
あなたは、画家が模写するように、空を眺めている。
あの雲は、あなたが描いたように、見えてきた。
なにかの形にも、見える。
あなたは、スマホを取り出した。
空にかざすと、迷いなくシャッターを押した。
「見せて」と言う前に、あなたは見せてくれた。
えっ?
これが、今、私が見ていた空。
私が見ていた空とは、全く違っていた。
ルネ・マグリットの『光の帝国』みたいだった。
空が昼で、森が夜。
あなたの中では、周りの景色は、絵画のように見えている。
アングルにも、迷いがなかった。
景色が、あなたに見られたがっているようだ。
気がつくと、信号が青になり、赤になっていた。
あなたと私は、まだ光の帝国をしばらく味わっていた。



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