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#554 独り言まで、優しい

あなたの独り言が、好き。
あなたと、美術館の中。
何かが、聞こえた。
あなたが、何かをささやいている。
私に?
独り言?
誰かと、話している?
絵と?
それとも、目に見えない誰かと?
あなたは、よく独り言を言っている。
話しかけているわけではない。
返事を求めているわけではない。
あなたの独り言は、優しい。
温かい。
耳を澄ます。
「いま、なんて言ったの?」と聞くのも、やぼったい。
何を言っているか分からないけど、何か深いことを言っている気がする。
あなたは、独り言を言いながら、ほほ笑みかけている。
ともすると不気味になる独り言が、あなたになると、こうも優しくなるのは、どうしてだろう。
中身を聞いていないのに、深いことを言っているのが分かるのは、どうしてだろう。
妖精と、話している。
話が、弾んでいる。
邪魔をしてはいけない。
耳を、さらに研ぎ澄ます。
「そうなの?」
あなたが、言った。
やっぱり、誰かと話している。
「なるほどね。それは、気づかなかった」
あなたが、ほほ笑んだ。
見えないけれど。
話している相手が、ほほ笑んだのも分かった。



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