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#555 背中を向ける、幸せ

あなたに、背中を向けるのが、好き。
レストランでの食事のあと。
クロークに預けていたコートを受け取ろうとすると、係の女性がほほ笑んであなたを見ていた。
私のコートは、既にあなたが持ってくれていた。
あなたが、あまりにディズニーな持ち方でコートを持っている。
あなたの肘にかかっているコートが、私のコートだとは思えなかった。
私のコートが、あなたの肘の上で、無重力に浮かんでいた。
天女の羽衣みたいだった。
あなたに向かって、背を向けた。
背を向けたくなった。
あなたに会うまでは、コートは、片方の腕から通していた。
あなたに会ってからは、コートを見なくなった。
180度、反対側を向けるようになった。
完全に、あなたを信頼している。
あなたに、後ろ向きになるのが好き。
ご主人様に、身を委ねている感じがする。
このまま、しばらくこうしていたい。
後ろ向きになるって、どうしてこんなに幸せな気分になるんだろう。
委ねるから。
完全な、無防備。
無防備になれる信頼感。
見なくても、任せられる安心感。
見なくても、いなくならない安心感。
服を着せてもらえるって、女性の最高の幸せ。
子どもの頃、父親に着せてもらったのを、思い出した。
このまま、時間が止まってほしい。
今まで、何万回と服を着てきたのに、服を着せてもらうのが、こんなに幸せなことだなんて、気づかなかった。
あなたは、コートを着せてくれるのではない。
コートを着せるふりをして、私に魔法をかけている。
まだ、着ていない。
これから、魔法をかけてもらえるんだという直前の時間を、もう少し味わわせてね。



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