#563 気づかれない手品
あなたの手品が、好き。
「本職は、なんですか」
と、あなたは、よく人から聞かれている。
その都度、あなたは、答えを変える。
相手が、思わず笑ってしまうような答えを用意している。
それが、あなたのサービス精神。
あなたは、何を聞かれても、面倒くさそうな顔をしない。
どんな下らない質問にも、真剣に答える。
質問が下らないから、せめて答えくらい真剣にしないと、と考えてるのかな。
私が考える、あなたの本職。
それは、手品師。
普通の手品師とは違う。
あなたの手品は、手品だと気づかれない。
手品だと気づかれないように、あなたは手品をかける。
いつ手品をかけて、いつ手品が終わったかも分からない。
手品をかけられた相手は、自分が手品をかけられたことにも、気づかない。
「手品を、かけましたよ」とも、教えない。
だから、誰も、あなたを手品師だと気づかない。
私は、感じている。
それまで自信がなかった人が、あなたと出会って、「行けそうな気がする」と感じるのは、あなたが手品をかけたから。
手品だから、訓練が要る。
その訓練も、あなたは見せない。
知らない人は、魔法だと考える。
持って生まれた魔法ではなく、地道な訓練で磨かれた手品だ。
あなたは、それでも、不満に感じない。
せっかく手品をかけているのに、相手に気づかれないなんて、寂しくないのだろうか。
あなたに、気づかれない寂しさは微塵(みじん)も感じられない。
むしろ、気づかれないことに、誇りを感じている。
だから、本業を聞かれると、あなたは相手が喜ぶ変な答えを、プレゼントしてあげる。
私も、いつも気づかない手品を、かけてもらっている。