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#564 職人さんの匂い

あなたの職人的な空気が、好き。
あなたと、私の時計のベルトの交換に行った。
職人さんが、お店の奥でメンテナンスをしている。
すぐ終わるメンテもあれば、お預かりになるメンテもあった。
「お待ちに、なられますか」
きっと預けることになる、と思っていた。
待っているコーナーも、オシャレだった。
革張りのファーニチャーも、高級だった。
座りながら、奥で作業をしている職人さんを見た。
待っているコーナーから、作業の様子がガラス越しに、よく見えた。
全てのお客さんが、その場で直してもらえるとは限らなかった。
むしろ、ほとんどが「お預かり」になっていた。
私の時計のベルトは、すぐに交換してもらえた。
すぐできることに、驚いた。
白衣を着た職人さんの作業する姿は、あなたに似ていた。
知らない人があなたを見たら、きっと何かの職人さんだと思うだろう。
あなたのお父様は、職人さんだった。
ひょっとしたら、あなたも職人さんを継いでいたかもれない。
実際、あなたは生き方として、職人さんを継いでいる。
あっ、そうか。
気づいた。
私の時計が、「お預かり」でなく、すぐしてもらえた理由。
職人さんは、時計ではなく、人を見ていた。
あなたを見て、すぐしてくれることになったのだ。
こちらから職人さんがよく見えると感じたのは、間違いだった。
逆だった。
職人さんが、お客さんを見ていた。
職人さんは、こだわりがある。
好き嫌いが、激しい。
同じ匂いのする人が、好き。
職人さんは、あなたに、職人の匂いを感じた。
職人同士のテレパシーを、感じた。



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