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#565 高い塔の上で、半裸で

あなたの甲冑(かっちゅう)姿が好き。
あなたと、博物館に行った。
暗くて、中はひんやりとしていた。
目が慣れると、誰かがそこにいた。
それは、人ではなく、甲冑だった。
日本の鎧兜(よろいかぶと)ではなく、西洋の甲冑だった。
映画に出てくる甲冑の本物を、初めて見た。
庇(ひさし)を下ろして、黙って立っている。
中に人が入っていないのだから、黙って立っているというのは、変な話。
でも、黙って立っているというのが、一番近い。
中に入っていた人を想像してみた。
そこにいるのは、ただの兵士ではなく、王子だった。
あなたに、似ている。
怖い存在なのに、優しく感じたのは、あなたに似ていたから。
あなたが、甲冑に似ているのではなく、甲冑があなたに似ている。
硬い鉄でできているのに、柔軟に動く。
重そうなのに、軽々と動く。
こちらが見ているのではなく、見られている。
庇の奥に、目を感じる。
ホラー映画なら、突然、動き出す。
動き出しそうで、動かないのが、余計怖い。
それも、あなたの怖さに通じる。
騎馬用・戦闘用・装飾用と、分かれている。
日本人が、美しい鎧兜で、戦場に向かったように、西洋人もこれを着て、戦場に向かった。
死と隣り合わせだから、美しい。
戦いのためのものなのに、どこまでも、美しい。
想像した。
私は、お城の塔の上に、幽閉されている。
地下ではなくて、やっぱり塔の上じゃないと。
服装は、半裸。
厚着でも、全裸でも、セクシーではない。
半裸の私を、甲冑のあなたが、助けに来て、抱き締めてくれる。



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