#580 ダンスのような、下がり方で
あなたのお辞儀のあとの下がり方が好き。
神社の拝殿で、あなたの二礼二拝を、味わっていた。
二礼二拝のあと、一礼。
そのあとの、下がり方が、好き。
状態をその場所に残したまま、あなたの右足が、すーっと後ろへ伸びる。
あなたの磨かれた靴の爪先が、地面すれすれをなでていく。
まるで、大地にキスをするように。
これは、どこかで見た。
そう、フィギュアスケート。
4回転を跳ぶ前の、後退。
あなたが、このまま、4回転するところを、想像してしまった。
あなたの体は、4回転はしないけど、ふわりと浮き上がって、爪先立ちのまま、後退した。
神様に、お尻を向けない美しい下がり方だった。
あなたのまねをしてみた。
よろけた。
ボールルームダンサーの体幹がなければ、この後退の仕方はできない。
あなたの向こう側に、美しい婦人がいた。
お参りの仕方が、美しかった。
その方が、私に話しかけてくれた。
「ご一緒の紳士は、お参りの仕方が、奇麗ですね。神社関係の方ですね」
私は「そうです」と、ほほ笑みを返した。
あなたの母方のお祖父様は、官幣大社の向かいに住んでいた。
あなた自身も、前世は、大きな神社の総本山の宮司だったという話を、何人もの人から聞いたことがある。
なによりも、お参りの美しい人に、お参りを褒められるのが、うれしい。
外国の軍服を着た人が、お参りをしていた。
ひと目で、将校さんであることがわかった。
あなたとすれ違うとき、将校さんはあなたに、敬礼をした。
あなたは、会釈で返礼した。
「あの方は、将校ですね」
と、青い目の将校さんが、私に小声で言った。
「Exactly」と、私は返事をした。
あなたが褒められると、私までうれしくなってしまう。