#581 めくって、読んで下さい
あなたのページのめくり方が、好き。
シャワーから出た。
あなたは、本を読んでいた。
あまりに静かなので、寝ているのだと思った。
見とれた。
あなたの、本を読む静けさに見とれた。
声をかけるのが、もったいなかった。
瞑想(めいそう)する僧侶のようだった。
呼吸の音も、聞こえなかった。
息を止めているのではなく、深い呼吸をしていた。
静けさの理由が、分かった。
あなたがページをめくる音が、しない。
あなたのページのめくり方が、優しい。
「めくる」って、こうすることだったのかと知った。
こんな本のページのめくり方をする人を、初めて見た。
優しい。
それでいて、弱々しくない。
私が、まねしたら。
きっと、恐る恐るしすぎて、余計、音を出してしまう。
あなたは、大胆にめくりながら、しかも音がしない。
しなやか。
「めくる」って、セクシーな言葉。
あなたにめくってもらう本のページが、羨ましい。
本のページが、あなたにめくられて、感じている。
さっきめくられたページが、余韻に浸っている。
これからめくられるページが、予感に震えている。
今めくられているページを、他のページが、羨ましそうに、している。
感じて、湿り気を帯びているので、音が鳴らないのね。
私も、そのページになりたい。
いや、もうなっている。
あなたに、いつも、ページをめくってもらっている。
今も、こうして。
また、1枚めくってもらった。
めくって、下さい。
私を、読んで下さい。