#586 早朝の森の湖のチェロ
あなたの、チェロみたいなところが好き。
あなたと、コンサートに行った。
チェロのコンサート。
チェロが、こんなにセクシーだなんて、今まで意識したことがなかった。
チェロは、大人。
ワンストロークが、長い。
どこまでも、どこまでも、ひと息で続く。
深い海の中を、潜っているよう。
弦の響きが、鳴り続ける。
チェロの弦の響きに、あなたを感じた。
あなたの呼吸も、チェロに似ている。
ひと息が、長い。
もうそろそろ吸ってもいいところなのに、まだ吐き続けている。
声は、もちろん響く。
でも、響くのは、声だけではない。
存在そのものが、響く。
あなたに包み込まれたとき。
チェロのような響きが、体を通じて、伝わってきた。
静か。
音はない。
ただそこに、振動だけがある。
心地いい響きがある。
響きに、抱きしめられる。
響きが、私の中を伝わっていく。
チェロのエンドピンの姿勢の良さは、あなたの姿勢の良さに似ている。
あなたは、エンドピンで立っている。
バイオリンよりも、弓が長いと思っていたら、実は、バイオリンよりも短かった。
それでも長く見えるのは、チェリストが、弓を腕の一部にしているため。
チェロの音は、早朝の森の奥の湖から、響いてくる。
あなたは、チェロの精だった。





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