#589 一緒に、迷子を楽しんで
あなたの、口出ししないところが好き。
あなたとお食事。
今日のお店は私が選んだ。
任せてくれるところが、うれしい。
きっと、気に入ってくれるはず。
予約ができないお店だった。
電話番号すら、書かれていなかった。
私も、初めてだった。
道は、調べた。
はずだった。
こんなに、遠いのかな。
地図を、確認する。
まわりの景色は、どれも似たような建物が並んでいる。
こんなとき、あなたは、「大丈夫?」とは言わない。
ニコニコ、笑っている。
「こっちかな」
早足で歩いても、付いてきてくれる。
地図で、確認。
あれ、さっきより離れている。
ごめんなさい、逆だったかも。
こんなとき、あなたは、中途半端にアドバイスをしない。
一緒に迷子になることを、楽しんでくれる。
「地図を見せてごらん」とは言わない。
「じゃあ、もう、僕が選ぶよ」とも言わない。
ただ、方向音痴の私と、一緒に放浪してくれる。
あなたは、どこまで懐がおっきいのかしら。
もう、レストランより、このあなたとの迷子の散歩が楽しくなっている。
むしろ、永遠にお店にたどり着けなければいいのにとさえ、思い始めている。
そんな私に、あなたはどこまでも付き合ってくれる。
我慢して付き合っているのではなくて。
むしろ、あなたのほうが、私より楽しんでくれている。
何を探しているのかも、忘れてしまっていた。