#592 一緒に、乗り越したい
あなたと乗る地下鉄が好き。
あなたと、地下鉄に乗っていた。
あなたは、地下鉄の中でも溶け込む。
どんなに混んでいても、ご機嫌。
中づり広告の、展覧会のポスターを見つめる。
そのとき、もうあなたは、その展覧会に行っている。
中づりでも、鑑賞が始まっている。
その展覧会の絵の物語を、話してくれる。
地下鉄の中で、あなたとするお話も、好き。
わずか数駅の間にも、あなたは面白い物語を聞かせてくれる。
映画を見ているみたい。
それで、それで……。
あなたの物語に、引き込まれていく。
地下鉄が、地上に出た。
あなたは、「さあ、話すよ」という気配なしに、話し始める。
気がつくと、引き込まれていく。
あなたと乗ると、景色が違って見える。
いま、どこにいるのか分からなくなる。
あら。
本当に、見たことがない景色。
降りる駅を、通り越していた。
あなたも、気づいた。
笑っていた。
話に夢中になって、降りる駅に気づかなかった。
降りる駅に、気づかないくらい楽しかった。
あなたが気づかないくらい話してくれるのが、うれしかった。
物語は、途中だった。
次の駅で、降りる。
普通は。
あなたは、物語を最後まで聞かせてくれた。
結局、終着駅で、降りた。
折り返す電車に乗り換える。
普通は。
あなたは、せっかくだからと降りて、カフェで物語の続きを話してくれた。
しかも、カツサンドもつけてくれた。
そのカフェの、カツサンドもおいしかった。