#596 絵本コーナーで、待ちながら
あなたの中の男の子が、好き。
あなたと、本屋さんで待ち合わせ。
絵本コーナー。
あなたが来る前に絵本を読もうと、早めに行った。
絵本コーナーは、子供たちがいっぱいだった。
絵本は楽しい。
子供向けのようでいて、大人でも面白い。
というより、大人じゃないとこれは分からないだろうというくらい深いものもある。
子供には分からないだろうというのは、大人の願望かもしれない。
大人より、子供のほうが深いに違いない。
絵本を読む子供は、いい顔をしている。
口が、開いている。
瞳孔も、開いている。
夢中になるとは、こういうことだと教えられている。
このコーナーは、立ち読み自由。
小さな椅子と丸テーブルが置かれている。
子供たちが、絵本を立てて読んでいる。
ページをめくるたびに、叫び声を上げている。
いろいろなパンが描かれたページでは、パンを選んでいる。
絵本を読みに来たのに、絵本を読んでいる子供たちを見てしまっていた。
絵本を読む子どもたちは、絵本の中と同じくらい絵本ワールドだった。
ここでは、絵本と絵本の外の区別がなかった。
幸せな気分になった。
私は、元気になっていた。
あなたに会うと考えるだけで元気なのに、それ以上に元気だった。
静かだった。
子供たちが上げる歓声は、小さな叫び声だった。
熱心に読んでいる男の子がいた。
本を立てて読む姿が、あなたに似ていた。
あなたが本を読んでいるとき、この男の子と同じ表情をしている。
えっ。
これは男の子ではなく、あなただった。
気づかなかった。
あなたは、早く来た私よりも早く来て、子供たちの中に同化していた。
もうしばらく、こうして眺めていられる幸せを味わった。
待ち合わせの時間まで。