#598 幸せな、香りが
あなたの嗅覚が好き。
あなたと、外に出た。
「あっ、夏の香りがするね」
あなたの嗅覚は、いつも敏感に働いている。
24時間、香道。
しかも、幸せな香りの話だけをする。
たしかに、夏の香りがした。
言われるまで、気づかなかった。
頭の中には、今日の予定しかなかった。
脳を、今日しなければいけない予定だけに、使っていた。
こんなこともあった。
「海の匂いが、するね」
それは、海から離れた場所だった。
どんなに海から離れた場所でも、風が海の匂いを運ぶこともある。
海から遠いから海の匂いがしないはずというのは、頭で考えている。
あなたの嗅覚は、思い込みから独立している。
あなたの嗅覚は、空間を超える。
あなたの嗅覚は、時間も超える。
晩ご飯の相談をするとき。
「ハンバーグの匂いがするね」
どうして分かったのか不思議だった。
私は、ハンバーグが食べたかった。
あなたの嗅覚は、晩ご飯にハンバーグを食べている時間に飛んでいた。
予想でもなく、予言でもなく、タイムトリップなのだ。
「ここは、いいお店だよ」
知っているお店ではなかった。
初めて入るお店だった。
まだお店にも入っていなかった。
店の手前なのに、お店の匂いを、あなたは感じていた。
「お風呂上がりだね」
メールで言われたとき、驚きながら、楽になった。
あなたの嗅覚は、時間も空間も飛び越えていくから、お風呂上がりの香りも、味わってもらおう。