#599 ボールペンの優しさ
あなたのボールペンの楷書が好き。
ウェブデザイナーの男性が、興奮していた。
「なにが、あったの」
あなたのノートを見て、興奮したらしい。
その人は、なにか、うわごとのようにつぶやきながら、走っていった。
あなたのノートを見せてもらった。
わっ。
なに、これ。
これが、ノート?
まるで、写経だった。
ボールペンで、端正な楷書で書かれていた。
しかも、縦横のレイアウトが、線で区切ったかのように整っている。
しかも、活字のように冷たくもない。
あなたは、字を使い分ける。
短歌をしたためるときは、縦書き。
万年筆で、行書。
ノートは、ボールペンで、楷書。
内容よりも、レイアウトと字に、見とれた。
これは、何百年後かには、国宝になりそう。
ただ整理されているだけでなく、あなたの興奮したエネルギーが伝わってくる。
これにしびれたウェブデザイナーも、感受性が豊か。
ところどころ、簡体字が交じっているのは、手書きのノートの多いあなたならではの工夫。
一文字、一文字、丁寧に書かれている。
楷書には、その人の人となりが出る。
行書や草書よりも、その人が出る。
一緒に天ぷら屋さんに行った。
そのお店では、アラカルトでの注文を、自分で書く。
そのとき、あなたはお習字をするように丁寧に、書いていく。
読み間違いのないようにというあなたの優しさが、ボールペンの楷書ににじみ出ている。
しかも、書きながら、楽しそうなのが、なによりも好き。