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#603 幸せの匂いで

あなたの幸せの匂いが、好き。
あの日、私は寝不足だった。
寝不足になると、目頭が重くなる。
机にうつ伏せになって、目を閉じていた。
目を閉じるだけで、目が休まった。
いい匂いがした。
何の匂いかな。
かすかなのに、はっきり感じる。
薄味なのに、味がしっかりついているチャーハンみたいな感じ。
私は、目を閉じたままだった。
何の匂いか分からなかった。
香水の匂いではない。
果物の匂いでもない。
植物の匂いでもない。
樹の匂いでもない。
アロマテラピーに行って好きな香りを選ぶように、何の匂いか思い出そうとした。
顔を上げて、まぶたを開けて、匂いの正体を確かめたい誘惑にかられた。
それ以上に、目で見ないで匂いの正体を突き止めたかった。
どこかで、かいだことがある。
いつ、かいだのか。
最近じゃない。
私の匂いの記憶が、どんどんさかのぼった。
この匂いは懐かしい。
子どもの頃かもしれない。
ひょっとしたら、赤ちゃんの頃かもしれない。
前世でかいだ匂いかもしれない。
匂いは、脳の奥深くに本棚がある。
かいだ匂いが本棚にしまわれている。
今までかいだ匂いをひもといてみた。
言葉では説明できない。
例えることもできない。
そうだ。
これは、幸せの匂い。
母親に抱かれているとき、母親から出る幸せの匂いだった。
この人が、好き。
あなたを見る前から、幸せの匂いで好きになった。



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