#605 見ない、涼しさ
あなたの涼しさが、好き。
あなたと待ち合わせをした。
あなたはカフェで本を読んでいた。
あなたがスマホを見ているところを、あまり見たことがない。
あまりというより、ほとんど見たことがない。
人がすることには気づけるけど、しないことには気づきにくい。
待ち合わせのカフェで、店じゅうの人がスマホを見ていた。
そのお陰で、あなたがスマホを見ていないことに気づいた。
人前でスマホを見るのは雅(みや)びでないので、しない。
と、思っていた。
スマホを見ているところを見せないのか、と。
実際、人前でなくても見ない。
あなたに電話がかかってくるところを、見たことがない。
音を消しているのではなくて、実際にかかってこない。
知り合いがいないわけではない。
知り合いは、あなたが出ないことを知っている。
だから、かけてこない。
あなたのスマホはレストランの予約をするとき専用のようだ。
あなたはメールも見ない。
あなたのパソコンは原稿を書くためにある。
メールを見ることで時間を無駄にしない。
メールは自動的にゴミ箱に行くように設定されている。
催促や怒りのメールも、すべて相手側の自己満足で完結する。
大事な人とのやり取りに不具合がないのか心配になる。
不思議なことに、私は不具合なく連絡が取れている。
あなたは100年先の未来に生きている。
100年後には、「100年前にはみんながスマホを見ていた」といわれるかもしれない。
あなたの涼しさは、100年後を生きている涼しさ。
今を生きることに必死な人に全く煩わされることなく、ほほ笑んでいる。
人の顔も名前も覚えないのは、そのために違いない。