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#606 声のない声が、聞こえる

あなたの小さな声が、好き。
あなたはいつも、ささやく。
あなたの声は通る。
だから、あなたの声は大きいのだと思っていた。
意識して聴いてみると、あなたは小さな声で話している。
ボリュームのオフになるかならないかの、ギリギリのところで話している。
なのに、聞こえてくる。
響いてくる。
伝わってくる。
あなたは、耳に向かって話していない。
私の胸の中に向かって、話しかけている。
だから、小さな声なのに聞こえてくる。
口も、ほとんど動かさない。
かすかに動くだけだ。
本当は、腹話術のように口を動かさないでも、話せるに違いない。
でも、口を動かさないと周りの人が気持ち悪がるから、わざと口を動かしている。
口は、むしろ後づけ。
響きは、伝わってくる。
コンサートホールのアンプで、一番小さくした音で、聴いているような感じ。
対談を録音したことが、あった。
対談相手の人は、大きな声で話していた。
あなたは、いつものように小さな声で、話していた。
家に帰って、あなたの声が録音されているか、心配だった。
聴いてみると、あなたの声しか、入っていなかった。
機械は、忖度(そんたく)しない。
本当にパワーのある声と、パワーのない声とを、聞き分けてしまう。
だから、あなたの声だけを拾ってしまった。
マスクをしていても、あなたの声は聞こえる。
遠く離れたところにいても、あなたの声が聞こえる。
きっと、空気の振動とは、違う仕組みを使って、私に届かせてくれている。
あなたの、聞こえない声を聞くのが、幸せ。



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