#610 1000分の1の破片で
あなたの破片が、好き。
あなたとの待ち合わせはジグソーパズル。
1000ピースのジグソーパズル。
たった1つのピースでも、あなただと私には分かる。
だから、あなたとの待ち合わせは楽ちん。
どんなに大勢いる中でも、ひと目で分かる。
私はカフェのテラスで本を読んでいた。
石畳を通る風が気持ちいい。
面白くて、グイグイ、話に引き込まれていた。
明治時代のパリの話の最中に、靴の爪先が見えた。
あなただ。
一瞬で分かった。
あなたは、靴の爪先から、あなた。
磨かれているだけではない。
磨いている人は他にもいる。
あなたの靴の爪先は浮き上がっていない。
吸い付くように、地面にフィットしている。
石畳に、あなたの靴の爪先が、フィットしている。
あなたの靴の爪先を見てしまうと、他の人の靴はみんな反り返ってしまっている。
あなたの靴が、いい靴だからではない。
いかに、あなたが靴を大切にしているかが分かる。
あなたは、お部屋に入ると、すぐ靴にシューツリーを入れる。
物を大切にする人は、人を大切にする。
あるとき、あなたの靴の甲だけが、見えたことがあった。
そのときも一瞬で、あなただと分かった。
あなたの靴の甲の皺(しわ)は、靴ひもと平行に入っている。
他の人の靴の皺は、斜めになったり、ばってんになったりしている。
奇麗に歩く人だということが分かる。
あるときは。
あなたの靴の踵(かかと)だけで分かった。
あなたの靴の踵は、すり減っていない。
まめに交換しているからではない。
靴底(ソール)の爪先を交換するときに、踵がすり減っていないので、メーカーの担当の人が驚いていた。
あなたの踵は、体重を載せずに、車輪のように転がっているだけだから、すり減らない。
私は、あなたのシルエットの早押しクイズを、楽しんでいる。