#623 うっとり、したのは
あなたのアンテナが好き。
あなたと食事に行った。
美人のウエートレスさんがメニューを広げてくれる。
私が何も言わなくても、私がその日、気になったものを、あなたはテレパシーで感じ取って、オーダーしてくれる。
こんなにスムーズにオーダーしてくれたら、スタッフの女性も気持ちがいい。
向こう側のテーブルのカップルはメニューを持ったまま、さっきからずっと迷っている。
まるで、あなたがウエーターのように見える。
心地いいテンポで料理が届けられる。
お客さんだけでなく、ウエートレスさんもシェフも気持ちいいにちがいない。
あなたは、「すいません」と言わない。
そういえば、一緒に食事をしているとき、あなたが「すいません」と呼ぶところを見たことがない。
だけど、ウエートレスさんがいいタイミングでやってくる。
三つ星レストランでも、街のカフェでも。
あなたはアイコンタクトを送る。
ウエートレスさんがあなたのアイコンタクトに応える。
お店が混んできた。
入ったときには、すいていたのに。
これも、いつものこと。
あなたが来ると、お店が混む。
あなたは、福の神。
どんなにお店が混んできても、ウエートレスさんに来てほしいときは、呼ばなくてもさっと来てくれる。
まるで、常連さんのように見えるに違いない。
全く初めてのお店のときでも同じ。
美人のウエートレスさんが、やってきた。
あらっ?
お願いごとは今はないはずだけど何か頼むのかしら。
「ドリンクのオーダーを、聞いてあげて」
私のドリンクは、まだ半分以上あった。
私ではなかった。
隣のテーブルの女の子二人組がドリンクのオーダーをした。
「ありがとうございます」
なんで、隣の二人組の女の子がドリンクを頼みたがっているのが分かったのかしら。
「スナックの息子だからね」
うっとりしたのは、二人組の女の子よりもウエートレスさんだった。