#212 あなたと、契りたい
あなたの言葉が、好き。
同じ日本語なのに、初めて聞く言葉を、あなたは話す。
もちろん、意味は知っている。
でも、その言葉を、使う人に初めて会った。
「契るよ」
思わず、プレイバックした。
初めて、その言葉を、言われた。
それだけで、受け入れてしまった。
私は、あなたの語彙に、恋をした。
「源氏物語」に出てくるお姫様たちは、光の君の語彙に、恋をしたに違いない。
契る……。
私は、心の中で、何度も口にした。
次の日の夜、あなたのことを思い出しながら「契る」と、声に出して言ってみた。
不思議な感覚だった。
日本語なのに、まるで外国語のような響き。
漢字辞典を出してきて、「契る」を調べてみた。
エッチな大人の言葉を、ドキドキしながら辞書で引く少女になっていた。
【契】(1)きざむ。しるしをつける。契機。
もう、ここまでで、感じてしまった。
しかも、私は、声に出して読んでしまっていた。
こんなエッチな漢字を、子供も読む辞書に載せていいのかしら。
18禁の字のマークをつけないと。
そんなことをしたら、よけい、読んでしまうけどね。
(2)交わる。約束する。契約。
約束しました。
(3)わりふ。わりいん。
【契情】(けいせい)という言葉が気になった。
絶世の美人。
「傾城」(けいせい)は、ここから来たのね。
気がつくと、辞書が真っ赤になるくらい、赤線を引いてしまっていた。
そして、つぶやいていた。
早く、あなたと、契りたい。