#223 あなたの傘に、包まれて
あなたの傘が、好き。
私は、交差点で、信号が変わるのを待っていた。
雨が、降り始めていた。
天気予報で、降水確率40%と出ていた。
それほど外を歩かないからと、傘を持たないで出た。
細かい雨が、降っていた。
信号を渡ったら、地下に潜ろうかなと、考えていた。
その時、雨が、やんだ。
よかった、慌てて傘を、買わなくて。
周りの人は、傘を差したまま。
ふんわりと、何かに、包まれている感じがした。
見上げると、高いところに、傘があった。
あなたが、傘を持っていない私に、傘を差しかけてくれていた。
普通、傘に入ると、圧迫感がある。
あなたには、なんの圧迫感も、感じなかった。
空中に広がっているくらいの傘の大きさに感じた。
そして、なんとも言えない心地よさだった。
信号が、変わった。
信号が、このまま、永遠に変わらなければいいのにと、思った。
交差点を、渡る。
いつもは長く感じるこの交差点が、短く感じた。
どこまでも、あなたの傘の下を、歩いていたかった。
私は、あなたに初めて会ったということを、すっかり忘れていた。
そのまま、私は、あなたの傘の下に、入ることになった。
私の心は、あなたの大きな傘に、雨宿りすることになった。
それ以来、出かける時に、傘を持つ習慣がなくなった。
降水確率100%でも、傘を持たなくなった。
今、こうして、ベッドの中でも、あなたの腕の中にいるのか、傘の中にいるのか、区別がつかないくらい。