#230 あなたと、目でお話しする
あなたと、目で話すのが、好き。
雨が降っていた。
これから、あなたとお出かけ。
タクシーを拾いに、あなたがマンションを出た。
あなたが、振り返った。
(タクシーを止めるまで、中で待ってて)
あなたが、そう言った。
はっきり、そう聞こえた。
頭の中で、プレイバックしてみた。
あなたは、声を発していなかった。
なのに、あなたの言葉がわかった。
優しい音色も、わかった。
(傘、大丈夫?)
私が、目で声をかけた。
(帽子が、濡れてしまう)
あなたが、帽子に触れた。
あなたは、目で話しかける私の声も、聞き取ってくれる。
凄いことをしているのに、ちっとも凄いことをしている感じすらない。
それが、凄い。
どこにいても、あなたは、目で話す。
私が、目で話していることも、聞き取ってくれる。
私たちは、目と目で、話し合っている。
まわりにいる人たちは、私たちが、黙っていると思っている。
でも、逆。
いっぱい、お話をしている。
(…………)
あなたが、エッチなことを言った。
(私も…………)