#238 イチョウの妖精に、包まれて
あなたの、女の子みたいな、感性が好き。
「あ、キレイだな」
あなたが、つぶやいた。
偶然、開いたドアの向こうに、窓があった。
窓の外に、イチョウの樹があった。
黄色と黄緑が交じり合って、風になびいていた。
朝の光に、黄色と黄緑のモザイク模様が、キレイだった。
ドアの枠が、まるで額縁みたいだった。
晩秋から、初冬へのリレーゾーン。
ドアの枠が、季節の時間を、切り取っていた。
このイチョウをバックに、あなたと写真を撮りたい。
「写真、撮りましょう」
心の中で、思っただけなのに、なんでわかるのかしら。
あなたには、私の心の暗号を全部解読されている。
心で思っただけのことに、あなたは全部、返事をしてくれる。
黄葉したイチョウを背景に、あなたと写真を撮る。
背中から、あなたが包み込んでくれた。
あなたに包み込まれているのか、イチョウに包み込まれているのか、わからなくなった。
暖かい初冬の日差しは、他のどの季節の日差しよりも、暖かだった。
樹の香りがした。
窓は、開いていないのに。
暖かい日差しの匂いもした。
背中が、温かくなった。
写真を撮ったのは、一瞬だったのに。
その後も、ずっと、温かい。
ずっと、イチョウの妖精に包み込まれている感じが残っている。
こうして今も。