#243 フルーツのように、カットして
あなたのリンゴの切り方が、好き。
クラブラウンジで。
おいしそうなフルートがあった。
リンゴとバナナとオレンジ。
あなたは、1つずつお皿に載せると、ナイフとフォークをお皿に載せた。
私が、食べたいなと思ったことを、どうしてわかってしまうのかしら。
どうやって、食べようかなと迷った。
あなたは、迷いなくリンゴを手に取ると、ナイフを刺して、ぐるりと1周回した。
そして、手でくるりとねじって、2つに分けた。
ナイフを刺した姿は、マジシャンのようだった。
イリュージョンの時のBGMが流れている感じだった。
こんな鮮やかな切り方を、初めて見た。
きっと皮を薄く回しながらむくこともできるけど、今日は、半分に切って、ワイルドに食べたい気分だった。
そう、ワイルドな感じ。
包丁で切るのではなく、腰につけたナイフで切るように。
あなたは、伯爵みたいなのに、ターザンのようなワイルドさもある。
あなたと、無人島に漂流するところを、妄想した。
無人島に漂流しても、あなたは木の上から、果物を取ってきてくれて、食べやすいようにむいてくれる。
バナナは、皮をむいて、実を斜めにカットしてくれた。
何気なく切っているけど、切る角度も、1切れの厚みも、見事に一定だった。
老舗のフルーツ屋さんで売っているカットフルーツのような芸術品だった。
オレンジは、硬い皮を、手でむいてくれた。
オレンジの皮をむいてもらうのって、優しくしてもらっている感じで、好き。
そのどれもが、さりげない。
今から、やりますっていう力みがない。
さりげなく、手品をして、凄いことをしてるのに、何もしていないみたいに、微笑んでいる。
あなたにカットされるフルーツになりたい。