#244 マントを、たなびかせて
あなたの歩く姿が、好き。
特に、冬は反則。
ロングのチェスターフィールドコートを着て、あなたが歩くなんて、一発レッドカード。
私は、エレベーターに向かっていた。
あなたが、集団をすいすいと追い越して、前を歩いていった。
せかせか歩いている集団の上を軽々と飛んでいくように、あなたが通り抜けた。
コートが、たなびいていた。
もはや、それはコートではなかった。
マントだった。
ドラキュラのマント。
あなたに、ロングコートを着せるのは、反則過ぎる。
それでなくても、羽が生えているのに。
ますます、空を飛んでいく。
あなたが、ドラキュラでも、女の子は、そのマントにくるまれて、飛んでいきたくなる。
あなたが歩くと、21世紀の日本ではなくなる。
中世のヨーロッパになる。
お城が、見える。
スピードが速いのに、優雅。
せかせかしていない。
すべてがなめらか。
スケート靴を、履いているみたいに、あなたは滑っていく。
あなたのスピードに追いつけない。
私は、いつも隣で、せかせか歩いてしまう。
あなたは、自動歩行のセグウェイに乗っているみたい。
ロングコートは、あなたのために作られている。
あなたが、立って、私を振り返ってくれた。
立っているのに、マントがたなびいていた。