#257 字を愛おしんで、書くように
あなたの字を書くところが、好き。
書道の時間でなくても、あなたが字を書くところが好き。
字を、愛(いと)おしんで、書いているのを感じる。
字を書く時、あなたの顔は、真剣。
だけど、どこか微笑んでいる。
字に、微笑みかけている。
レストランで、クレジットカードにサインをする時。
天ぷら屋さんで、注文するネタを、自分で書く時。
そんなにきっちり書かなくていいものなのに。
そんな時ほど、あなたは、愛する人を抱きしめるように、字を書いている。
あなたは、字を見る時も、抱きしめるように優しい。
たまたま、神社があった。
あなたは、神社を見つけると、顔見知りにでも会ったかのように、お参りする。
お参りをした後、あなたが、別の方向に歩いていく。
小学生の子供たちの書道を、展示してあった。
あなたは、子供たちが書いた字も、愛おしそうに眺める。
この瞬間、あなたは、子供たちの書道の先生になっている。
または、子供になって、「小三お年玉」と大きな紙に書いている。
サインをする時も、あなたは、愛情深く、書く。
あなたが字を書く時、いつもとは違う時間が流れる。
集中する時間。
面倒そうなものを書く時ですら、まったく面倒そうに感じない。
放っておいたら、いつまでも書いていそうな気がする。
あなたが字を書くところを、眺めているのが好き。
あなたが字を眺めているところを、眺めるのが好き。
ほら、また、見ている。
イタリアン・レストランの「本日のおすすめ」の黒板に、チョークで書かれた字を、あなたは料理のように味わっている。
あなたが字を愛おしんでいるのを見た時、私はもう抱きしめられていた。