#200 何も言わなくても、わかってくれる
何も言わなくても、わかってくれるあなたが好き。
あなたには、なんにも、説明が要らない。
あなたの講演に行った。
ホテルの宴会場だった。
あなたの本を持って、サインしてもらった。
サインをしてもらう時に、部屋のメモ用紙を使って、ルームナンバーを書いた。
もうその日は、帰る電車が間に合わないので、そのホテルに泊まっていた。
どこのホテルでもよかったけど、どうせなら、講演のあるホテルに泊まった。
メモ用紙を渡す時、ドキドキした。
「あの、これ」と言おうかどうしようか、迷った。
何も言わなかった。
きっと、わかってくれるはず。
「もっと、お話ししたいです」とも、書かなかった。
ただ、ルームナンバーだけ。
忙しいあなたなので、ムリかもしれない。
それでも、何かしないと、何も起こらない。
ほかの女の子に、気づかれないか、ドキドキした。
でも、それくらいのこと、みんなしているに違いない。
「あの、これ」と渡すほうが、無粋すぎる。
まわりの女の子にも、気づかれてしまって、あなたにも迷惑がかかる。
あなたは、ほかの女の子と同じように、フレンドリーにサインしてくれた。
誰にでも、優しい。
部屋に、戻った。
やっぱり、忙しいかな。
でも、勇気を出して、渡してよかった。
仕事もあるし、デートも忙しいし。
私としては、大冒険。
これはこれで、よしとしよう。
シャワーを浴びようと脱ぎかけた時、チャイムが鳴った。
また、ドキドキが始まった。