第156回 直木賞受賞作品に選ばれた本作。著者は過去6度ノミネートされながら惜しくも受賞を逃していた、恩田陸だ。その恩田陸が今回、ようやくその”栄冠”を手にした著者、珠玉の一冊。
本作のテーマは、ピアノコンクールに出場する10代~20代の若者が互いに切磋琢磨しあい成長する、青春群青劇である。著者自身も過去に『ブラザー・サン シスター・ムーン』でも音楽をテーマにした作品を書いているが、「どっぷり音楽に浸かった小説は初めて」と著者が言うように渾身の思いが507ページにわたり綴られている。
舞台の始まりはパリのコンクールのオーディション。そこには書類選考に落とされた者のみに与えられた最後の試練である。そのオーディションに遅刻して表れたのは、主人公風間塵だ。身なりも汚く、場に不相応な彼の姿に審査員が驚くがそれよりも度肝を抜いたのは、彼のピアノである。煽情的であり暴力的な彼のピアノを審査員は拒絶するが、どこか真新しいものを求めていた審査員は彼をコンクールに出場させる。
コンクールが開かれる芳々江国際ピアノコンクールには、各国からオーディションを勝ち抜いた英知が集う。このコンクールにはジンクスがあり、このコンクールで最高位を獲ったコンテスタント(候補者)は、国際的なコンクールでは軒並み優勝するなど、まさに登竜門として位置づけられている。そのコンクールには塵だけでなく同世代のマサル・亜矢をはじめとする若き天才が凌ぎをけずる。
コンクールは1次、2次、3次そして本選と進むなかで、出場者同士が切磋琢磨し成長しあう。どのようにしたら自らの演奏の持ち味が出せるか、観衆を魅了できるか、ピアノという黒い箱から紡ぎ出される一音、一音が会場を席巻する。災厄として受容されている塵は、人々の聴覚ひいては五感すべてにどう映るのか。災厄なのかはたまたギフトなのかまさにコンクールというリングでその試練は始まろうとしている……。