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乳と卵

乳と卵

乳と卵

著者 ページ数 クチコミ評判
川上未映子 133ページ ★★★★

著者川上未映子さんが、第138回芥川賞を受賞した著者の代表作になります。

登場人物は夏子(主人公)と姉の巻子、そして巻子の娘の緑子の三人になります。今作では、主人公は夏子であるものの、主なストーリー展開は巻子と緑子の二人であるのが特徴的です。夏子はあくまでも傍観者にすぎない存在です。

物語は巻子と緑子が夏子を訪ねて上京するシーンから始まります。そして東京の夏子のアパートが舞台となり、夏子と巻子、巻子と緑子、夏子と緑子のストーリーが展開されています。また、巻子も緑子もそれぞれ問題を抱えて上京しています。

それぞれの問題とは、巻子はタイトルにある「乳」のこと。緑子は「卵」、卵子のこと。つまり、「乳と卵」は言い換えれば「巻子と緑子」を指しています。さらにそれぞれが諸問題を抱えているがそれ以上に重要なことは、母子のコミュニケーション不足にあります。この「乳」と「卵」という物理的対象でしかないものが、読み進めていくうちにそれらが、母子との新たな巻子、緑子との邂逅を意味するファクターとして堂々と存在しています。

今作では、体言止めや句読点が不規則に羅列しており、口語的文章となっておりかなり砕けた文章になっています。また、緑子のセリフが文章と切り離されている点も興味深い表現となっています。この構成は、緑子が巻子や夏子に対して一切口を開かず、スケッチブックによる筆談によるコミュニケーションをとっているからです。今作のなかで緑子の心情がうかがえるのは、文章から切り離されたそれでのみ可能です。切り離されたそれには、頻繁に「厭」という「嫌」よりも憎悪のこもった表現がされているのも、緑子のキャラクターを端的に表すものとして、頻繁に使用されています。

どう、「乳」と「卵」が混ざり合い邂逅するのか。読み進めれば川上未映子ワールドに引き込まれること間違いなしの一冊となっております。

(文:編集部O)

 



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