高校世代のサッカーというと毎年冬に行われる高校サッカー選手権が馴染み深い人は多い。確かに、中村俊輔、大久保嘉人、本田圭佑、柴崎岳など日本を代表する数々の有名選手が巣立った夢の舞台でもあり、高校のサッカーの最高峰とも言える舞台である。しかし、高校のサッカー部とは別にJリーグのクラブには、高校世代を育成するユースという下部育成組織が存在する。近年、このユースから世界へ羽ばたく選手が増えており、宮本恒靖、香川真司、清武弘嗣、久保裕也などがユースから直接プロへ昇格した。
そんなJリーグの下部組織であるユースを題材にした作品が『アオアシ』である。サッカー漫画も高校のサッカー部を題材にした漫画が多い中、クラブユース題材にした珍しい作品である。
愛媛県に暮らす中学3年生の青井葦人は、ふとしたことから東京にある強豪Jクラブ「東京シティ・エスペリオン」のユースチーム監督・福田達也から出会う。福田監督は、アシトが荒削りながらも無限の可能性を見抜き、東京で開催される自チームのセレクションに誘うところから物語は始まる。1巻は、ユースのセレクションの途中ということもありアシトの発想のみが描かれているが、巻が進むにつれサッカーにおける「インテリジェンス(思考能力)」の重要性について各キャラから言及されていく。
スポーツ漫画というと、多かれ少なかれ主人公の何かしらの『才能』を武器にのし上がるパターンが多いが、他と異なるのはそれが「キック力」や「ドリブル力」といったフィジカル的なものではなく、インテリジェンス(思考能力)の高さというところである。
サッカーは、技術力が高いことやフィジカルが強いことも重要であるが、特に現代においては「フィールドの全体を見渡せる視野の広さ」を持っているかも重要な要素の一つである。
実際にサッカーをやったことがある人はわかるかと思うが、だいたい見えるのは自分の前方数十度ぐらいが限度であり、フィールド全体を見渡すことができない。しかし、超一流の選手となるとこのフィールドを俯瞰する能力が発達しており、特にメッシなどが所属しているバルセロナが志向しているポゼッションサッカーなどでは、この俯瞰できる能力を持っている選手を揃え、一瞬にしてフィールド上の選手が同じ戦術を描けるかが重要となる。
話は外れたが、この俯瞰できる能力というのは、観客としてこの作品を読んでいる読み手の視点と合っているのだ。
テレビや実際にスタンドの上からサッカーを見たひとはわかるとわかると思うが、「あそこにパスだせばいいのに!」とか「サイド空いてるのに!」みたいなことを思うシーンが多多々あるのだが、本作の主人公はそれがわかるのだ。つまり、観客となる読者と同じ視線でプレーを行っているのだ。そのため、観客である読み手にとっては手に取るように主人公の考えがわかるし、感情移入もしやす仕組みとなっている。
この俯瞰的な視点を言語レベルにまで落とし込むことで、よりリアルなサッカー選手の思考やリアルな戦術を学ぶことができるのもこの作品の特徴である。
サッカーがただただボールの回しているスポーツではなく、高度な戦術を要したスポーツであり、フィジカル要素だけでなく、インテリジェンス能力が如何に重要かがわかるだろう。そして、サッカーがさらに面白いスポーツであることを感じることは間違いない。
もちろんそれだけでなく、ユースという「育成」システムや高校生という世代が抱える葛藤など数多くの視点から描かれおり、本作の面白さを底上げしていることは間違いないだろう。
サッカーが好きな人にはもちろん、それ以外の人も読めば間違いなくサッカーの面白さに目覚める一作である。
(文:編集部S)