3月18日(土)に実写映画の上映が開始される『3月のライオン』の原作。
『ハチミツとクローバー』で一躍注目を浴びた羽海野チカの作品で、「マンガ大賞2011」で大賞を獲得し、第18回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した当作品。昨年の10月からはNHKでアニメも放映中されている。
なお、タイトルの『3月のライオン』は、イギリスの天気の諺「3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去る(March comes in like a lion and goes out like a lamb)」から来ており、「物語がつくれそうな言葉」と感じていたそう。
また、監修を努めている先崎学九段昇級は6月から始まる順位戦の昇給、降級をかけた最終局が3月に行われるため、3月は、棋士がライオンになると語っている。
苦しい道を歩いていく姿と、棋士の戦う姿を表したタイトルは、まさに物語を象徴する相応しいタイトルになっている。
主人公である桐山零は現役高校生の天才将棋棋士。そんな彼はとても暗い過去を持っていた。
父の友人である棋士、幸田に内弟子として引き取られたが、幸田との子どもと軋轢もあり、六月町にて一人暮らしを始めた零が、1年遅れで編入した高校では上手く馴染めず、さらに将棋の対局でも不調が続いていた。
無口で、人との関わりを拒絶するかのように孤独でいた零だったが、橋向かいの三月町に住む川本家と出会ったことをきっかけに、三姉妹と夕食を共にするなど交流を持つようになり、心を開いて行く。
川本家を通じて人の温かさを知った零は、学校や将棋の世界とだんだんと外へ心を開き、それと同時に等身大の高校生として、プロの棋士として、少しずつ成長する姿を描いている。
将棋を題材にした漫画ではあるが、人の交流が多く、将棋を知らなくても楽しめると思います。
逆に「将棋マンガ」だと思って読むと、少しがっかりするかもしれませんが、将棋界のプロがどんな世界なのかを垣間見れるかもしれません。
裏表紙に、「様々な人間が、何かを取り戻していく優しい物語」と作品紹介がなされていますが、作品に出てくる多くの人が何かを失っており、少しずつ傷つきながらも強くなっていく様を描いています。
読んでいくと心に突き刺さる切なさと痛みや残酷さを感じる場面もありますが、同時に「生きる」っていうのはこんなにも苦しいんだなと感じる反面、主人公がそうなように誰か気にかけてくれている人がいて、支えてくれる人がいるんだということに気がつかされる。
そのため、主人公のやっていることがいい悪いではなく、純粋に応援できる作品である。
厳しい将棋の真剣世界と微笑ましい日常のやり取りを上手くことで、日頃に忘れがちな人のぬくもりを思い出させるこの作品は、アニメや映画だけでなくぜひ原作である漫画も手に触れてもらいたい。
(文:編集部S)