講談社が主催するメフィスト賞。今回の『コンビニなしでは生きられない』は、第56回メフィスト賞受賞作品です。
主要なコンビニチェーンだけでも、日本全国に55,395店(2018年2月度 JFA発表)あるという。コンビニで働く主人公を描いた『コンビニ人間』で、村田沙耶香さんが第156回芥川賞を受賞し、大きな話題となった。
コンビニが小説の舞台として取り上げられる作品が増えつつあるが、今回取り上げる『コンビニなしでは生きられない』は、「コンビニを愛しすぎた著者」というフレーズがある秋保水果(あきうすいか)さんがそのコンビニを舞台にした青春ミステリー作品です。
人間は居場所を求める動物であり、その居場所は家族や職場、趣味の仲間など多岐にわたる。しかし、それがすべて上手く馴染める場所かといえばそうではない。居心地の良さとは、常に偶然のバランスで成り立っており、なにかあればそのバランスは崩れてしまうのである。そして、そのバランスが崩れたときに、その人の本当の真価が問われると言ってもいい。
本作の主人公、白秋(はくしゅう)は大学生活に馴染めず1年で中退し、バイト先にコンビニこそが唯一の居場所だった。そこに研修でやってきたのが、女子高校生の黒葉深咲(くろはみさき)である。
ただ奇妙ななことに、深咲が研修として店に入ってから奇妙な事件ばかり起こる。強盗、売り場から少女が消える、お客さんが繰り返しレジに並ぶ、お客さんのお金がレジ前で紛失したりと、店内で奇妙な事件が多発する。深咲は目を輝かせながら、事件に首を突っ込んでいく。教育係の白秋は、彼女に翻弄されながらも、事件の謎を解いていく。
事件の謎を解いていく2人は、店の誰もが口を閉ざしている過去のある事件にたどり着く。唯一の居場所を失いかねない事態に、白秋はどう対処するのか。なぜ、深咲が入店してから事件が多発したのか。過去の事件が解けた時に、衝撃の真実が明らかになる。
そして、なぜ白秋の居場所がコンビニになったのかも明らかになります。
今、自分の居場所が苦しいと感じている人がいるいと思います。でも、1人ではありません。気づいていないだけで、味方になってくれる人はいます。あなたにふさわしい居場所は絶対にどこかに存在します。なので、諦めないで探して欲しいと思います。この作品を読めば、居場所の大切さと人の温かさを再認識できると思います。
コンビニというリアルな場所だからこそ日常的な謎にワクワクし、19歳の白秋と高校生の深咲から溢れる青春にキュンキュンさせられる。キャラが立ちまくりの2人を軸に展開していく、ストーリーはデビュー作とは思えない完成度で、続編を希望してしまう作品。
長々書きましたが、青春ミステリーということで、ワクワクできるし、キュンキュンもできるこの作品を気軽に手にとって読んでください。
(文:編集部S)