現代の日本に似ているが、色々な部分が少しずつ異なる架空の日本を舞台にした青春スポーツ小説の一作目。
「青春? スポーツ? 三崎亜記が?」
……なんか今回はハズレくさい。
そんな第一印象とはうらはらに、これは本当におもしろかったです。
ストーリーは主人公である高校生の樹が『掃除』という架空のスポーツを通して自分と真摯に向き合い成長していく様子を描いた、まさに王道スポーツもの。
幼なじみの美少女お嬢様。
おとなしいが芯の強さを感じさせる謎多き後輩の少女。
個性的な掃除部の面々。親友、ライバル、コーチ。
さらには活動制限スポーツ「掃除」をとりまく国家の思惑などもからんできて……。
キャラクターの設定も展開もまるで少年漫画のようで、読みながら何度も「これアニメ化したらおもしろいだろうな」と考えました。
不条理でありながらもどこか淡々として静謐さを感じさせる三崎さんの他の作品に比べると、エンタテインメント要素が多く、熱を感じる話です。
同時に、彼特有の細部まで作りこまれた世界観や文章力も健在。
西域、強化誘引剤など、他の作品を読んでいる人にはおなじみの言葉もちらほら。
豊富な語彙、美しい日本語のリズムを駆使して描かれる掃除の場面は圧巻。
空を舞う主人公や、舞い上がる塵芥。
見たこともないはずの掃除の映像が鮮やかに脳内に浮かんできます。
まさに「世界を騙る魔術師」三崎亜記。
小説を読む、ということの醍醐味を味わえる一冊です。