新しいボクシングマンガ
『RIN』は新井英樹によるボクシングを題材とした作品で、前作『SUGAR』の続編にあたる作品です。本作は『週刊ヤングマガジン』にて2005年46号から2006年1号まで掲載された後、『別冊ヤングマガジン』で2006年16号から2008年30号まで掲載された作品です。
前作『SUGAR』でプロボクサーとなった主人公・石川凛。デビュー戦では1ラウンド4秒KO負けというKO最短記録を更新するという惨めな負けっぷりだったが、その後は13戦連続KO勝ちという離れ業を成し遂げ、WBCスーパーフェザー級チャンピオンの王座に輝く。天性の才能に恵まれたうえに試合中のパフォーマンスや取材陣や対戦相手へのふざけた態度・対応から、観客からは顰蹙を買い、いい加減な性格と取られがちだが、練習は決して休まず、兼業の板場の仕事をサボらず真面目にこなすなど、真摯な一面もある。そんな凛が次に対戦するのは元・極道のWBC世界ライト級チャンピオンの立石。生まれも、育ちも、生き方も何もかも正反対の二人。それは「剛と柔」「水と油」という言葉だけでは説明しきれないものがある。己の存在意義をボクシングにかけ、勝利を目指す立石とそれを茶化すかのように自信満々、傲岸不遜に振舞う凛。
ボクシング漫画といえば代表的なのは「あしたのジョー」。風来坊で一匹狼の矢吹丈だったが、丈には力石徹という好敵手であり、拳を交えてお互いを理解・尊重しあえた「戦友」がいた。だが、凛には「戦友」といえるほどの好敵手が果たしていただろうか。ボクシングはその過酷なトレーニング等から「孤独な戦い」ともいわれるが、凛と本当にわかりあえるのは凛以上に変人のジムの会長・中尾だけかもしれない。現役を退いているのが残念な限り。天才と変人は紙一重であり、天才は孤独ともいえるが、このボクシングの天才・石川凛の「孤独な戦い」の行く末がどうなるのかさらに見てみたかった。「明日のジョー」や「はじめの一歩」などのボクシングを題材とした作品では異色の作品かもしれないが、読むうちにぐいぐいと引き込まれていくことは間違いない。そこが新井英樹氏の個性であり、異能ともいえるところなのだろう。傑作です!