僕は明日(8日)、お仕事でいわゆるひとつの札幌に向かう。高校の修学旅行で行った時の記憶を思い出そうと、海馬の引き出しを漁ってみたところ、何もかも埃にまみれたブツばかりで、唯一鮮明だったのが「お母さんからもらった幾ばくかのお小遣いで、小さなカニを買って実家に送りつけた」というもののみだったので、当時の僕は全ての観光地でおめめをつぶっていたのだと思います。
ご紹介が遅れました。僕です。
お仕事でこういった奔放極まりないコラムや、地方へ出向くなんてこたぁ、今までなら滅多にねえことだったので、本当にありがたく思います。滅多になさすぎて、一部べらんめえになっちまったことを許してほしい。
この自分の世界が広がっていく感じが僕はたまらなく好きで、どれくらいたまらないかというと僕の貯金くらいたまらないのですが、これが『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』ではとても顕著にあらわれていて、最高なので今日はそのお話などをします。
ファミリーコンピュータ版『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』のパッケージ
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現在『ドラゴンクエストⅪ』まで発売しているわけですが、そんな今なおドラクエシリーズ内での人気が高く、いつまでも色褪せない名作『ドラクエⅢ』。その魅力を列挙しているうちに僕の寿命などが尽きる可能性があるほどですが、世界が広がっていく自由度の高さというのは特筆すべき点があるように思います。
主人公が自らの父オルテガのあとを追って、世界を守るための冒険に出るわけですが、その道中に決められた仲間が加入することはありません。アリアハンという最初の地にあるルイーダの酒場で、プレイヤー自らの手で名前と職業を決めた仲間などを3人までパーティに加えることができます。つまり望むなら1人でも冒険に出ることができるわけです。まさに勇者。
『ドラゴンクエストⅢ』の地図
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そして物語を進め、船を手に入れてから世界がぐーんと広がります。どれくらいぐーんかというと、『ポケットモンスター』で「わるだくみ」をしたときの「とくこう」くらいぐーんとです。ドラクエⅢでは、6つのオーブを集めることになるのですが、オーブの集める順番はなんと自由。地図を見て、「どこから行こうかな」などと言いながら、口笛を吹き、強敵を呼び寄せ、あたふたするなんてのもまた一興。
まだ見ぬ土地に降り立ち、ここでは何をすればいいのかを考えながらオーブを集め、父親の確かな足跡に一歩一歩近づきながら、世界を冒険していく感覚。1つのストーリーの中に順番が用意されていないのに、全てのプレイヤーが同じ感動を覚える。そして伝説へとつながるこの壮大な物語を、美しくも力強くそして確実に心を打つBGMで彩る、その完成度たるや。いまだ味わっていない方、ぜひご堪能あれ。
『長い長い殺人』宮部みゆき(光文社)
世界が広がるとはまた別のような気がしないでもないですが、宮部みゆきさん著「長い長い殺人」を読んだときに似たような感覚を覚えました。生意気なことを言います。「小説ってまだまだこんなに可能性があるんだな」と思いました。言いました。
小説の語り手というのは、時には主人公であったり、時にはまた別の登場人物であったり、時には天の声などと呼ばれるような、いわゆるひとつの神様視点というやつであったりするのですが、この『長い長い殺人』で語り手を担うのは、なんと作中の人物の財布なのです。
財布は常に携帯している貴重品であり、かつ肌身離さず寄り添っているものなので、確かにその瞬間、もし彼ら(財布)が息をしていたならこの話も聞こえていたのかな、という想像を掻き立てられる奥行きの深さ。そして、人ではないのである程度情報が制限されるという、ミステリー小説ならではの遊び。なによりこの発想。読んでいてわくわくが止まりませんでした。そのわくわくさたるや、隣にゴロリと名乗る毛深めの生命体がいて、牛乳パックなどで信じられない工夫を凝らした何かを創り、創造神を名乗って国営放送を牛耳るなどするほどでした。
金は天下のまわりものなどと言いますが、財布から財布へと展開していく事件の全貌を是非自分の目で確かめてください。そして少しだけ財布に優しくしてあげてください。
割と小奇麗にまとめたなあと我ながら感心するなどしていましたが、つなぎ目の部分がそれはもうちぐはぐで、わくわくさんもひくほどセロテープ使いまくって、無理やりつなげた様相を呈していて、それを見たミスターストイックこと僕は、鬼神の如き憤怒の表情を浮かべ「まあいいか」と言いました。
いきなり世界を広げるもんじゃないですね。きちんとレベル上げしてから、少しづつステップアップしていこうという教訓回ですね。
そういった旨のタイトルにしておきますので、読者諸賢は是非参考などにするように。
■今回ご紹介いただいた書籍
■『長い長い殺人』宮部みゆき(光文社)
轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。
事情聴取を始めた刑事は、森元の妻・法子に不審を持つ。
夫を轢いた人物はどうなったのか、一度もきこうとしないのだ。
隆一には八千万円の生命保険がかけられていた。
しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが…。
刑事の財布、探偵の財布、死者の財布―。
“十の財布”が語る事件の裏に、やがて底知れぬ悪意の影が。